Research
崩壊と再生
建てて、崩れて、また建てる——この営みは人間が繰り返し表現してきた根源的テーマです。 チベットの砂曼荼羅から宮崎駿の『君たちはどう生きるか』まで、 アート・建築・映画・文学に流れる「崩壊と再生」の水脈を辿ります。
美術・インスタレーション
壊すことが作品になる
砂曼荼羅
チベット仏教 / 2500年〜僧侶が何日もかけて色砂で精緻な模様を作り、完成した瞬間に掃き崩す。崩した砂は川に流す。作ることと壊すことがセットで一つの行為。
Andy Goldsworthy
英国 / 1956〜自然の中で石・氷・葉・枝で彫刻を作り、風や潮や重力で崩れるのを写真に撮る。最初から崩すつもりで作ると意志の強度を失うため、本気で作る。
金継ぎ
日本 / 15世紀〜壊れた器を漆と金で継ぐ。割れる前より美しくなる。壊れた経験が価値になる。侘び寂び、もったいない、無心と接続。
Jean Tinguely
スイス / 1960年MoMAで廃品から巨大な機械彫刻を制作。250人の前で27分間動き、自壊した。正式タイトルは「自己構築し自己破壊する芸術作品」。
Yoko Ono「Mend Piece」
1966年〜現在白い部屋に割れた茶碗と接着剤。来場者が破片を修復し棚に並べる。約60年間展示が続いている参加型インスタレーション。
建築・文化遺産
壊して建て直すことで永遠を目指す
伊勢神宮の式年遷宮
日本 / 690年〜
1300年間、20年ごとに神殿を完全に壊して建て直す。哲学は「常若(とこわか)」——変わり続けることで変わらない。
直島
日本 / 1980年代〜
銅精錬の公害で荒廃した瀬戸内海の小島を、アートと建築で再生。産業による破壊からアートによる再生へ。
映画
安全な距離で「喪失」を体験する装置
アリストテレスはこれをカタルシス(浄化)と呼びました。 映画が引き起こす悲しみは現実の悲しみのリハーサルであり、 それ自体が情操教育になります。
インサイド・ヘッド
2015 / Pixarカナシミは排除すべきものではなく、助けが必要だと周囲に知らせる機能を持つ。悲しみと喜びが混じった複合感情こそが人間の成長。
トイ・ストーリー3
2010 / Pixar3作・15年かけて積み上げた愛着を手放す。投資した時間が長いほど喪失は深い。
火垂るの墓
1988 / 高畑勲冒頭で死を知らせることで、すべての幸福な場面が一時的なものに変わる。崩れることを知りながら建てる。
かぐや姫の物語
2013 / 高畑勲未完成の描線が消滅を暗示する。最も感情的な場面で音楽が最も抑制される。泣かせようとしないから泣く。
千と千尋の神隠し
2001 / 宮崎駿記憶は消えても、身体に刻まれた変化は残る。千尋の歩き方が変わっている。
君たちはどう生きるか
2023 / 宮崎駿大叔父が積み木を積み上げて世界を維持している。悪意で積んだ積み木は保たない。
文学・哲学
繰り返しの中に意味を見出す
シーシュポスの神話
カミュ / 1942岩を山頂まで押し上げると転がり落ちる。永遠に繰り返す。もう一回押し始めるその瞬間に意味がある。
見えない都市
カルヴィーノ / 1972都市は可変的で時間とともに変容する。都市の最大の美点がその崩壊の原因になる。文明の脆さの隠喩。
百年の孤独
ガルシア=マルケス / 19677世代にわたる創造と破壊の循環。再建が失われたとき、完全な滅亡が訪れる。
日本の美意識
壊れることに美を見出す文化
もののあはれ
本居宣長が18世紀に体系化。儚いものへの感受性。 それを見届けられたことへの静かな喜びを含んだ悲しみ。
侘び寂び
不完全・無常・不完結に美を見出す。 よく枯れたもの、錆びたもの、時を経て美しくなったもの。
常若(とこわか)
伊勢神宮の哲学。永遠の新しさ。 変わり続けることで変わらない。
横断的に見えるパターン
アート・映画・文学・建築に共通する原理
本気で建てなければ、崩壊に意味はない。
破壊は創造の反対ではなく、創造の一形態。
再建は複製ではない。金継ぎは元より美しくなる。
時間と遅さが意味を作る。急がないから崩壊に重みがある。
抑制が感情の余白を作る。泣かせようとするほど観客は引く。
YURAGIの体験——街を建てて、揺れて、崩れて、もう一回建てる——は、 人間が数千年にわたって表現し続けてきたこのテーマの、 子供が最初に触れる入口です。